今回は、相続実務に携わる方は絶対に抑えておきたい改正民法899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)についての条文解説です。
民法899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)は、2019年7月1日に施行された新設の条文になります。
改正民法第899条の2(新設) 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
今回は、民法899条の2が明文化された背景と、この条文について押さえておきたいポイントを解説します。
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改正民法第899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)が新設された背景
改正法施行前は、遺言で”相続分の指定“や”遺産分割方法の指定“があった場合は、「相続分を超える部分」について、対抗要件を備えなくても、対抗要件の欠缺を主張できる正当な利益を有する第三者(以下、第三者)に対してその権利を対抗できるとされていました。
言葉の意味
“相続分の指定“とは、「各相続人の相続分を次のように指定する 長男6分の4 次男6分の2」というように、遺言で各相続人の相続分を割合で指定する方法です(民法902条)。
“遺産分割方法の指定“とは、「遺産分割の方法を次のように指定する。 長男 不動産A」というように、遺言で遺産分割の方法を指定することです(民法908条)。
また、遺言書に「すべての財産を長男に相続させる」と書いてあった場合(「相続させる」旨の遺言)も、原則”遺産分割方法の指定”にあたるとされてきました(最高裁判決平成14.6.10)。
対抗要件とは、当事者間で有効な権利変動の法的効力を、第三者に対して主張するために必要な要件のことです。対抗要件についての詳細解説はここでは割愛しますが、例えば不動産であれば”登記”、動産であれば”引渡し”、債権譲渡であれば譲渡しした債権者から債務者への”通知”又は債務者の”承諾”をしていることが”対抗要件を備えている”ことになります。
改正法施行前の具体例
相続人が長男と次男の子2人であった場合、法定相続分は長男次男とも2分の1(6分の3)ずつです。
先の相続分の指定の例では、長男が権利承継した6分の1が法定相続分を超える部分です。改正法施行前は、もともとの法定相続分である2分の1(6分の3)についてはもちろんのこと、これを超える6分の1の部分についても、対抗要件を備えずに第三者に対抗できていました。
遺産分割方法の指定の例では、遺言者の唯一の相続財産が不動産Aだけであった場合、相続人に次男がいた場合でも、長男の法定相続分を超える不動産Aの所有権全部の取得を対抗要件(登記)を備えずに第三者に対抗できていました。
改正法施行前の問題点と改正の背景
改正法施行前は、相続分の指定であれ、遺産分割方法の指定であれ、相続させる旨の遺言であれ、相続分を超える遺産を承継した場合に、その相続分を超える部分について対抗要件を備えずに第三者へ対抗できていた訳ですが、そのために問題も生じていました。
先の遺産分割方法の指定の例で、登記がなければ長男が遺言によって不動産Aの全ての所有権を取得したことを第三者甲さんが知る由がありません。
第三者甲さんが、相続がおこったので長男と次男が法定相続分の2分の1で相続しているはずだと考え、次男から次男の法定相続分であろう2分の1の持分について買い取ったとしても、遺産分割方法の指定で長男が相続する旨の遺言が存在することによって、次男から持分を買った第三者Cさんは不測の損害を被ることになります。
遺言書の存在を理由に対抗要件を備えない相続人が保護され、遺言の存在を知り得ない第三者が不利益を被るのは由々しき事態です。こういった問題を解決するために、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないという民法899条の2の条文が新設されました。
改正民法899条の2新設のポイント
ではここで、改めて条文を確認してみましょう。民法899条の2は1項と2項がありますが、まずは1項です。
改正民法第899条の2(新設) 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
簡単に言い換えるならば、「遺言であれ遺産分割であれ、相続した遺産に相続分を超える部分がある時は、その超える部分については登記等の対抗要件を備えなければ第三者に負ける」と規定されています。尚、899条の2の条文中にある”次条”は民法900条の法定相続分、”第九百一条”は代襲相続人の相続分について定めた条文です。
不動産の場合は登記すること、自動車の場合は自動車登録ファイルへ登録することで対抗要件を備えたことになります。その他の対抗要件には、宝石や時計等の動産の場合に、引渡しを受けていることがあります。
例えば、共同相続人が子Aと子Bの2人であった場合に、子Aが相続させる旨の遺言で唯一の相続財産である不動産を相続したとします。子Aが登記をしないうちに、子Bが先に法定相続分子A1/2,子B1/2の持分で相続登記をした後に、子Bが自己の持分1/2を第三者Cに譲渡し、第三者C名義に所有権の持分移転登記をした場合、子Aは「その持分は自分のものだ」と第三者Cに主張しても後の祭りです。子Aの法定相続分を超える分については、登記を備えた第三者Cが取得することになります。
債権については、民法899条の2の第2項で特別の規定がされています。条文を確認してみましょう。
民法899条の2の第2項では、相続した財産が債権の場合、相続分を超える部分を承継した相続人一人が、遺言や遺産分割の内容を明らかにして債務者にその承継の通知をすることで、相続人全員が債務者に通知をしたものとみなす、と規定されています。
具体例で考えてみましょう。
相続人が子Aと子Bの2人、唯一の相続財産が銀行預金1000万円だったとします。遺産分割で子Aが銀行預金1000万円全てを相続することになりました。この場合、法定相続分を超えて銀行預金債権を承継した相続人である子Aが、銀行に対して遺産分割の内容を通知します。そうすることで、子Bからも銀行に通知があったものとみなされて、銀行預金の解約や払い戻し手続きができるようになります。







