2020年4月1日、明治29年に民法が制定されてからほとんど改正の無かった債権法の分野を中心に、約120年ぶりに民法が大改正され施行されました。
これまで意思能力について明確に規定している条文はありませんでした。今回の改正で、民法第3条の2で意思能力について明文化されました。
改正民法第3条の2(新設) 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
今回は、意思能力について明文化された背景と、この条文について押さえておきたいポイントを解説します。
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改正民法第3条の2(意思能力)が新設された背景
「意思能力」とは、自己の行為の結果を判断するに足るだけの精神能力のことをいいます。簡単な言葉に言い換えると「こうすればこうなる」と分かるかどうか、それを判断する能力のことです。
意思能力が無い方(意思無能力者)がした法律行為(≒契約)は、無効だと解されてきました(大審院判決明治38.5.11)が、民法で明文化された条文はありませんでした。
高齢社会となった今日では、高齢者や認知症患者のトラブルが増加しています。それらの方を保護する目的で、意思無能力者がした行為は無効であることを明文化する必要性が求められ、今回の改正で民法3条の2に「意思無能力者がした法律行為は無効」という条文が新設されました。
意思無能力者がした法律行為は無効の意味
ではここで、改めて条文を確認してみましょう。
改正民法第3条の2(新設) 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
太字の部分を簡単に解説します。
①法律行為:法律行為の代表的なものは”契約”です。例えば売買契約では、「これをいくらで売ります」「それをいくらで買います」という当事者の意思が相手方に到達し(改正民法522条(契約の成立と方式))、お互いの意思が合致し合意することで売買契約が成立します(民法555条(売買))。
②意思表示:効果意思(一定の法律効果の発生を欲する意思)を外部に表示することです。…というと難しいですが、例えば売買契約の際に「これをいくらで売ります」「それをいくらで買います」という意思を相手方に表示することです。表示の仕方は黙示(態度や振舞)でも明示(口頭や文書)でも大丈夫です。
③意思能力:自己の行為の結果を判断するに足るだけの精神能力のことです。7~10歳程度の子どもの判断能力があるか否かで、意思能力の有無が判断されると考えられています。年齢(ex.就学前の幼児)、病気(ex.認知症患者)など、意思能力が無いと判断される理由には様々なものがあります。
④無効:無効とは、はじめから何らの法律効果が生じない状態をいいます。つまり、はじめから何もなかったことになります。無効は原則いつでも誰からでも主張できます。しかし意思無能力者がした法律行為の無効は、本人保護を目的としているため、意思表示をした本人のみが無効を主張できると解されています(相対的無効)。
これを踏まえて民法第3条の2を売買契約の場面で考えると、「これいくらで売ります」と言った人にその時点で意思能力がなければ、売買契約は無効になると言えます。
民法第3条の2は、これまでの実務上の解釈を条文に落とし込んだものなので、真新しい論点はなく、実務に与える影響は特にありません。
六法先生の改正民法条文ポイント解説 第1回 民法3条の2「意思能力」についてはここまでです。次回は民法4条「成年」について2回に渡り解説します。







