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士業の議論・考察

[議論/考察]配偶者居住権とは?設定場面・登記・相続させる文言・持ち戻し免除推定規定の準用等

議論8:配偶者居住権

誠実先生
誠実先生
近年は生涯未婚率(50歳時未婚率)が上昇し、結婚しない人が増えていますね。『配偶者居住権とは?創設の背景と要件、登記について』の記事の中で紹介した以外にも、「配偶者居住権」という配偶者固有の権利を創設することによって、婚姻率をあげたいといった背景もあるようですね。

※配偶者居住権が創設された背景については、『配偶者居住権とは?創設の背景と要件、登記について』の記事の中の「配偶者居住権の創設の背景と具体例」の章をご参照ください。

今回は、令和2年4月1日から創設された「配偶者居住権」について、4人の司法書士・税理士で話した内容をご紹介致します。

配偶者居住権が設定される場面とは?

電卓先生
電卓先生
「配偶者居住権」は広く一般の方に利用される権利になるのでしょうか?相続人同士が円満であれば、配偶者以外の相続人が自宅の所有権を取得したとしても、配偶者居住権を設定せずに遺産分割協議でそのまま家に住み続けることができますよね。「配偶者居住権」が設定されるのは、遺産分割で揉めたり遺言の内容に疑義があるなど、何か問題があって裁判に発展した時に裁判所が設定するなど、設定される場面が限られそうな気がするのだけど、どうでしょうか。
誠実先生
誠実先生
「配偶者居住権」は遺言によっても設定できますよね。配偶者に自宅の居住権を与えたいといった時には、被相続人の意思で設定されることがあると思います。所有権よりも、居住権の方が相続時の評価額は低くなりますね。配偶者に所有権ではなく居住権を与えることで、相続財産の分配を均等化させたいといったような場合に使われることがありそうです。

あと、例えば遺産分割協議で自宅の所有権を子が取得し、配偶者居住権を設定せずに配偶者が無償で住み続けることができるようにしていても、子が先に亡くなり、子に配偶者がいた場合には、所有権は子の配偶者が相続することになります。もともとの被相続人の相続人同士の関係が円満であった場合でも、配偶者と子の配偶者の関係が良くない場合は、そのまま住み続けることができなくなるかもしれませんね。こういった場合に備えて配偶者居住権を設定しておくといったことも考えられますね。

情報屋先生
情報屋先生
遺言で所有権を配偶者に与えると、配偶者が死亡した時に、また自宅の所有権を配偶者から相続人へ相続させることになりますね。例えば自宅の所有権を子に取得させ、居住権を配偶者に設定しておくと、配偶者が死亡した時には自宅の所有権の相続は問題にならないですね。二次相続までを考えた時には、配偶者居住権を設定するメリットがありそうです。
電卓先生
電卓先生
被相続人が自宅を第三者へ遺贈するとしていた場合、配偶者は第三者への遺留分侵害額請求権で居住権を取得することはできるのでしょうか?配偶者居住権の評価額は所有権の評価額より低く評価されるので、所有権を取り戻せずとも居住権だけを取り戻すといったことも考えられそうですが。
情報屋先生
情報屋先生
「配偶者居住権」の取得要件は、条文上は「遺産分割」と「遺贈」、解釈上「死因贈与」となっています。遺留分侵害額請求権は、この要件に当てはまらないので、遺留分侵害額請求では「配偶者居住権」は取得できないんじゃないかな。

配偶者居住権の登録免許税・登記に関すること

登録免許税と民法1031条

誠実先生
誠実先生
配偶者居住権の設定登記をする時の登録免許税は「建物の固定資産税評価額×0.2%」ですね。賃借権設定登記の登録免許税は「固定資産税評価額×1%」です。自宅の所有権を配偶者以外の方が取得し、そこに配偶者が賃借権を設定する形で住み続けるよりは、配偶者居住権を設定する方が、登録免許税は安くなりますね。
電卓先生
電卓先生
配偶者居住権は登記をすることで第三者への対抗要件となるので、当事者以外の第三者へ配偶者居住権を主張する場合には登記をする必要がありますね。配偶者居住権の登記に関する条文(民法1031条)に、「居住建物の所有者は、配偶者(略)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。」という規定があります。この条文を見ると、所有者には登記をする義務があり、登記が配偶者居住権成立の効力要件のようにも一見思えますが、配偶者居住権の成立要件に登記は関係なく、登記はあくまで第三者への対抗要件です。
情報屋先生
情報屋先生
配偶者居住権設定の権利者(配偶者)には、所有者に対する配偶者居住権設定の登記請求権があります。民法1031条は、配偶者居住権を設定した場合には所有者が必ず登記を備えなければならないというわけではなく、権利者(配偶者)が所有者に対して”配偶者居住権設定の登記請求をした場合には”、所有者は登記に協力する義務があるという解釈ですね。
誠実先生
誠実先生
相続登記については、今、相続登記の義務化が検討されていますよね。これまでにも民法560条※等で、義務者に対抗要件を備えさせる義務を負うことを規定している条文はありましたが、新設された配偶者居住権の登記に関する条文で、権利者主体の規定ではなく義務者主体で規定しているのは、今後の登記義務化の流れを見据えてあえてそうしているのかもしれないね。
六法先生
六法先生
配偶者居住権は他人所有の建物に住むという点では賃貸借と似ています※が、賃貸借の条文(民法605条)では、「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。」とされています。これは権利者(賃借人)主体で規定されていますね。条文の規定の仕方にも配偶者居住権と賃貸借の違いがでていますね。

※配偶者居住権は建物を無償で使用及び収益をする権利ですが、賃貸借契約は有償契約であり、賃料の支払いが要件となる点にも違いがあります。

配偶者居有権設定登記申請の添付書類

誠実先生
誠実先生
配偶者居住権の設定登記を申請する場合の添付書類として、登記原因証明情報を作成する際には、配偶者居住権の取得要件が満たされていることを記載しないといけませんね。
情報屋先生
情報屋先生
配偶者居住権の取得要件には、配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していたことがありますが、登記原因証明情報の一部として住民票の写しを添付する必要はないようですね(令和2年3月30日付法務省民二第324号通達)。
誠実先生
誠実先生
相続開始時に居住していたことを登記原因証明情報の中で明らかにしていれば住民票の写しはいらないですね。
電卓先生
電卓先生
配偶者居住権は遺産分割協議・遺贈・死因贈与によって取得しますが、登記原因証明情報として遺産分割協議書・遺言書・死因贈与契約書を添付する場合には、それだけでは配偶者の居住要件等の他の配偶者居住権の成立要件が満たされることが分からなければ、他に要件を満たしていることが分かる書類を添付する必要がありますね。
六法先生
六法先生
配偶者居住権は令和2年施行の改正民法で新たに創設された権利です。登記申請の実績もまだまだ少ないので、司法書士以外の方がご自身で登記申請するのはハードルが高いと思います。配偶者居住権の設定登記を検討される際は、そもそも配偶者居住権を設定できる要件を満たしているのか、また配偶者居住権の登記申請をする際の登記原因証明情報としてどのようなものを添付すれば良いのか等、配偶者居住権に詳しい司法書士に一度相談して頂きたいですね。

遺言書に配偶者居住権を”相続させる”と書いてあった場合

誠実先生
誠実先生
遺言書に”相続させる”と書いてあった場合は、遺言者による遺産分割方法の指定と考えられますね。相続法改正の中間試案では、遺産分割方法の指定でも配偶者居住権を取得できるとされていました。しかし、遺産分割方法の指定がされると、配偶者が配偶者居住権はいらないと思った場合でも配偶者居住権だけを相続放棄することができず、相続財産全てを相続放棄しないと配偶者居住権を放棄することができなくなってしまうといった不都合が生じるため、配偶者居住権の取得要件から遺産分割方法の指定は除外されたようです。

以上の点を踏まえて、遺言書に「配偶者居住権を”相続させる”※」と書いてあった場合は、配偶者居住権を取得できるものかな?

※遺言書に”相続させる”と書かれていた場合は、特段の事情のない限り、遺産分割方法の指定と解すべきとされています(平成3年4月19日最高裁判決)。

情報屋先生
情報屋先生
以下のような通達が出ていますね。遺贈の趣旨であると問題なく解されれば、相続させると書いてあっても配偶者居住権を取得できそうですね。
令和2年3月30日付法務省民二第324号

「遺贈」を登記原因とする配偶者居住権の設定の登記の申請において,配偶者に配偶者居住権を相続させる旨の記載がされた遺言書を登記原因証明情報として提供する場合にあっては,遺言書の全体の記載からこれを遺贈の趣旨と解することに特段の疑義が生じない限り,配偶者居住権に関する部分を遺贈の趣旨であると解して,当該配偶者居住権の設定の登記を申請することができる

電卓先生
電卓先生
遺言書によって配偶者に配偶者居住権を取得させたい場合は、「遺贈する」と書くよう指導すべきですね。実務では、相続人に対しては「相続させる」という文言が多用されがちなので要注意ですね。

配偶者居住権は無償で住み続けられる権利

誠実先生
誠実先生
配偶者居住権は配偶者にだけ認められた固有の権利であり、他人へ譲渡はできず、配偶者が死亡しても相続されないなど、一身専属権的な性質がありますね。

配偶者が破産した場合、自宅の所有権を取得して住んでいた場合は自宅を差し押さえられ、第三者へ売却されると配偶者はその家に住むことは出来ません。しかし配偶者居住権を取得して自宅に住んでいた場合は、配偶者居住権自体を差し押さえられることはないので、配偶者は破産してもその家に住み続けることができますね。

電卓先生
電卓先生
配偶者居住権が設定された建物の所有者が破産して差し押さえられた場合でも、配偶者居住権の設定登記をして第三者対抗要件を備えていれば、建物の所有権が第三者へ移転したとしても、配偶者は変わらず無償で住み続けることができますね。差し押さえて建物を売っても配偶者居住権は残るので、配偶者居住権が設定されている建物を差し押さえて換価手続きへ移行させることは少なそうですね。
六法先生
六法先生
例えば亡くなった人の相続人が配偶者と子であり、子が自宅の所有権、配偶者が配偶者居住権を取得し、自宅には配偶者と子が住んでいたとします。子には借金があり、子の自宅の所有権を差し押さえられて競売され第三者へ所有権が移転したとしても、配偶者居住権はそのまま残ります。配偶者居住権には、配偶者の家族や家事使用人と同居することが当然に予定されているので、子もそのまま住み続けることができますね。

配偶者居住権の使用収益性

情報屋先生
情報屋先生
配偶者居住権を取得した配偶者は、建物所有者の承諾を得て他人に自宅を賃貸することができますね。
誠実先生
誠実先生
そうですね。ただ、配偶者が亡くなる等の理由で配偶者居住権が消滅した後のことも考慮して、賃貸借契約を締結する際には、配偶者(賃貸人)・賃借人・所有者の三者間合意によって、配偶者居住権が消滅した後も賃借人がそのまま住み続けることができるようにしておくといいですね。

配偶者居住権の持ち戻し免除の推定規定の準用

誠実先生
誠実先生
配偶者居住権は、持ち戻し免除の推定規定が準用されますね。被相続人が遺贈によって配偶者に配偶者居住権を設定させた場合、持ち戻し免除の推定要件を満たせば、特別受益の持ち戻しをしなくてよくなりますね。
民法903条第1項

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

民法903条第4項

婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

民法1028条第3項

第903条第4項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

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